「 知って驚く自衛隊規制の異常 」
『週刊新潮』 2009年6月18日号
日本ルネッサンス 第366回
北朝鮮は相変わらず暴走中だ。4月5日の長距離弾道ミサイル発射、5月25日の核実験及び短距離ミサイル3発発射、26日の短距離ミサイル2発発射、29日にも短距離ミサイル1発を発射。そしていまは、朝鮮半島日本海側の南東部、江原道(カンウオンド)・旗対嶺(キテリヨン)で新たな発射準備ととれる動きが進んでいる。
言葉の攻撃も激烈だ。6月6日の「労働新聞」は、韓国の李明博政権が米国主導のPSI(大量破壊兵器拡散防止構想)への全面的参加を決めたことに対し、「売国行為」と非難し、「無分別な挑戦には強力な報復で立ち向かうのが、われわれの革命的気質」、「想像も出来ない報復攻撃で遺されるのは灰だけ」、「武力衝突と全面戦争は時間の問題だ」と、警告した。
ちなみに、PSIは03年5月、米国のブッシュ政権が提案した。北朝鮮船舶への貨物検査活動とも密接につながる、大量破壊兵器の拡散を止めるための国際社会の取り組みである。現在90を超える国々がPSIを支持し、参加、協力中である。
北朝鮮の国際社会への挑戦は、彼らの常套手段である人質作戦としても進行中だ。6月8日、北朝鮮中央裁判所(最高裁判所)が、拘束中の米国人女性記者2人に、12年の労働教化刑を言い渡した。2人には「朝鮮民族敵対罪」と「不法国境出入罪」が適用された。
オバマ米国大統領は6月6日、フランスのサルコジ大統領との会談後、北朝鮮の行動は「極めて挑発的」だとし、「北朝鮮が地域を不安定化させるなかで、われわれが同じ対応を取り続けると決めてかかるべきではない」と警告した。つまり、米国外交は「話し合い」や「外交的解決」だけではないと警告したのだ。
不条理な行動制約
大統領発言直後の7日朝、クリントン国務長官が、北朝鮮を再びテロ支援国家に指定することを検討すると語った。そのためには「国際的なテロ活動への支援の最近の証拠が必要」という前提条件つきではあるが、北朝鮮を動かすためには、力による外交も辞さないと言ったに等しい。
女性記者への労働教化刑12年について、同長官は「人道的見地から即時釈放」を求め、核、ミサイル問題などと連動させることを拒否した。だが、北朝鮮の狙いは、2人の身柄問題を他のすべての問題に連動させ、人質として利用し、対米関係で有利な状況を作り出すことにある。言葉による説得だけでは北朝鮮は動かないことを米国は否応なく知らされるだろう。その場合、残る有効手段は力の行使しかない。
そこで国連安全保障理事会における北朝鮮制裁決議が焦点のひとつとなる。安保理常任理事国に日韓を加えた7ヵ国は大使級会合で、全加盟国に北朝鮮関連の船の貨物検査を義務づけることで、基本的に合意した。公海上では、当該国、つまり北朝鮮の合意が必要という制約がついたために、実効性は疑問だが、「臨検義務づけ」の意味は大きい。北朝鮮に対して、国際社会は、北朝鮮の行為を許す気はないと宣言したに等しいからだ。
だが、この件も中国政府が決め手だ。9日現在、中国政府の明確な意思表示はなく、今回もまた、中国は北朝鮮擁護に終始するかもしれず、予断は許さない。
他方、日本政府は、対北朝鮮強硬策を主唱し、米国のテロ支援国家再指定の意向を歓迎する。問題は、国連が強硬な制裁決議を行えば行うほど、実は日本は窮地に立たされることだ。自衛隊のいかなる力の行使に関しても法的整備がまったく出来ておらず、自衛隊は、国際社会で、事実上、武力を使えないからだ。
自衛隊に関する法律がどれほど不条理にその行動を制約しているか、結果、国際社会に出たとき、自衛隊がどんな活動をしているか、先述のPSIを例に見てみる。
日本はPSI発足以来の参加国で、07年10月には、PSI海上阻止訓練「Pacific Shield 07」を主催した。日本主催の国際的合同訓練で、自衛隊が成し得たことは何だったか。平成20年度版の防衛白書にはこう書かれている。
「自衛隊は統合訓練として、洋上における海・空自による捜索・発見・追尾および海自による乗船、立入検査並びに陸自による港における容疑物質の除染などに関する展示訓練を行」った。
軍事評論家の潮匡人氏は元自衛官として、普通の民主主義国家の軍隊では考えられない類の活動の制約をかつて体験した。氏は、防衛白書の右の文章の、一般人にとっては一読するだけではわかりにくい意味を、さっと、次のように読みとった。
パネル展示が訓練
「『洋上における』という言葉から『容疑物質の除染などに関する』までをカギ括弧に入れて再読してください。つまり、自衛隊に許された参加は、一連の活動に関連するパネルを展示することだったという意味です。現行法ではそれしか出来ない、許されないということです」
日本政府は、PSIには「積極的に参加してきた」と苦しい主張を展開してきた。だが、日本が合同訓練を主催する場合でさえも、また「実動訓練に参加」と銘打っている場合でさえも、実際の活動は「実動」とは程遠いパネル展示などにとどまる。その他の国の主催する合同訓練では、日本はいずれもオブザーバー参加などとなっている。一人前の国家としての参加ではない、という意味だ。
有体に言って、私は非常に驚いた。過去6年間、日本はずっとPSIに参加して、日本なりに大量破壊兵器の拡散防止に協力してきたと思っていたからだ。しかし、日本の自衛隊の実績はこれほど貧困なのだ。
中国政府が北朝鮮への貨物検査に支持を表明して、それが国連の正式決議となったと仮定しよう。その場合も、PSI活動と同様、日本は間違いなく不名誉の極みに立たされる。現行法では、海上臨検で自衛隊に出来ることは、怪し気な船舶に船名や船籍、積み荷、目的地などを問い質す類のことだけで、強制的に停船させることも出来ず、船舶が逃げれば追尾しか許されていないからだ。
手も足も出してはならないとして自衛隊を縛る一連の異常な防衛関係法を正すことなく、北朝鮮関連の貨物検査など、本来、主張すること自体が恥ずかしい。言い出しっぺの日本が、いざというとき貨物検査には参加出来ないなどと、どんな顔で言えるのか。早急な法改正が必要だ。
自民党では性急な北朝鮮外交に反対の立場の「北朝鮮外交を慎重に進める会」などが中心となって、この惨状を変えるべく、論議がなされてきた。北朝鮮の船や貨物などの臨検を可能にするには、現行法の手直し程度では不可能として、新法を目指している。こうした立法作業を私は大歓迎する。だが、事は急を要する。急いでほしい。
[政策]アンフェアな規制は黒船がくるまで続く
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トラックバック by keitaro-news — 2009年07月05日 14:07